癇癪とは
1歳から2歳になった頃は、大人の言うことを素直に聞き、言う通りにしていた子どもも、2歳の後半から3歳頃になると、少しずつ自分の思う通りにしたがったり、怒って親に反抗したり叩いてきたり、無視をするようになります。
自分の思い通りにしたいために、
- 泣く
- 怒る
- 暴れる
- 寝転がって駄々をこねる
- ものを投げる
- 大人に向かって叩いたり蹴ったりする
というような行動を起こすことを、『癇癪』(かんしゃく)と言います。
癇癪を起すと手が付けられず、家庭ではもちろんのこと外出先でも困り果てている保護者の方がいることでしょう。
一体なぜ子どもは3歳くらいになると癇癪を起こすのでしょうか。
原因や癇癪の特徴、対処法と、近年懸念されることが増えた発達障害についても触れながら、詳しくお話をします。
3歳児が癇癪を起こす原因
3歳児が癇癪を起す原因は、成長の一端であることがほとんどです。
1歳から2歳までは、保護者や周囲の大人に対して素直であり、言う通りに行動したり言いつけを守ったりしてきたかもしれません。
少しずつ成長をし、2歳後半から3歳になると「自我のめばえ」に目覚めます。
- 自分と他者(保護者を含む)は違う人格であることを自覚する
- 自分の意思があることを自覚する
- 自分の思うこと、感じたことをまだうまく話せないため、泣いたり怒ったりして表現する
- なんでも自分でやりたい
- できると思っているがうまくいかずに感情が不安定になる
- 同じことを自分もしようとしているのに他者が働きかけると「いや!」「だめ」と言う
これは成長のあかしであり、自分を一人の人間として自覚した子どもの姿なのです。
できれば癇癪を起してしまう前に、周囲の大人が子どもの気持ちに寄り添い、折り合いをつけながら生活ができると良いでしょう。
ですが、大人も忙しい日々を送っているので、子どもの気持ちに合わせてゆったり関わるのがむずかしいときもあります。そうすると、自分の意思を無視されたように感じ、癇癪を起して自己主張するのです。
癇癪とは、決して大人を困らせようとしている行動ではありません。成長のあかしであり、誰もが通る道なのです。
また、この時期にきちんと自己主張をしておくと4歳を過ぎた頃には落ち着き、人の話を冷静に聞いたり、優しい気持ちを持ち合わせたりするようにもなります。
まさに、「人間形成・人格形成の土台作りと自立へ向かう姿」が、3歳前後の癇癪なのです。
3歳児 癇癪の特徴① 生活面でも自立をしたい強い気持ち
自分の思い通りにしたいという気持ちはわがままなのではなく、自分にも意思や考えがあるという自立へ向かう気持ちの表れです。まだ小さな子どもなので、言葉や態度での表現方法がわからないために、「癇癪を起す」という行動で表現しています。
よく見られる特徴のひとつとしては、身支度を自分でしたかったのに、服選びや着脱の手伝いをしたときに、泣いて怒ったり、初めからやりなおさないと怒りが収まらなかったりする姿です。
この癇癪や行動は、まさに一人の人間として「自立」したい気持ちの表れです。
- 服選びは子どもにさせるとちぐはぐだったり、季節感がなかったり、恥ずかしくて出かけられない恰好をしたりもします。
- 脱は3歳児ではまだむずかしい場合もあるので、手伝ったり着せてあげたりすると、「自分でやるのに!」と怒ったり、服を脱いで初めから自分で着ようとします。
このように着替えやトイレ、食事、お出かけの準備、靴を履くなど、生活全般のお世話をしようとすると、「自分でやりたかったのに!」とまだできなくても自立をしたい気持ちが表れるのが特徴のひとつです。
3歳児 癇癪の特徴② 自分の思う通りにしたい気持ち
買物へ一緒にでかけると、欲しいものを買ってもらえるまで怒ったり泣いたり床に寝転がったり、足を踏み鳴らしたりして癇癪を起す場合があります。
「昨日買ったから今日はないよ」「家にもあるでしょう」、と言っても、目の前にある誘惑には勝てず欲しがり続けます。
自分の思う通りにしたい、思う通りにしてもらえなければ騒いだり泣いたりして通そうとするのも癇癪の特徴です。
3歳児 癇癪の特徴③ 癇癪を起こすのは周囲の関わり方や声掛けが引き金になることも
大人と同じように対等に会話ができるようになる3歳児ですが、まだまだ言葉で自分の思いを伝えたり、相手の気持ち汲んだり、今の状況を把握することはむずかしいものです。
ルールや約束は理解をしているものの、自分の心に折り合いをつけ、納得して自ら気持ちを立て直すことは難しいものなのです。
自分の思い通りにしたい・してほしいという気持ちがうまく表現できず、怒ったり泣いたり叩いたりしますが、それはその状況を何とか改善したいという思いがあるからです。
嫌だ・辛い・〇〇がしたいのにできない、など思い通りにいかなくても、周囲や大人の都合で叶わないことがあると、癇癪を起します。
癇癪を起したときに、周囲の大人がどのような対応や声掛け、接し方をするのかによってその子供の未来が変わってきたり、人格形成や物事の捉え方、親切な心が育ったり育たなかったりもします。
3歳児の癇癪が起きたときの対処法
ここからは癇癪を起すお子さんの周囲にいる大人の方や、保護者の方にしっかりと寄り添いながら、
- どうしたら癇癪が収まるのか
- 癇癪を起こした時は、どうすることが子供にとって良いのか
- 普段から気をつけておきたいこと
の3つに分けてお話しをしていきます。
3歳児 癇癪の対処法① どうしたら癇癪が収まるのか
癇癪を起こしている際、子どもがいち早く癇癪を収める方法は、「言葉と態度でよりそう」ことに尽きます。
「●●がしたかったのだね。わかるよ。」
泣き止まなくても、保護者のこの言葉だけで子どもは救われます。
自分の気持ちを一番理解してほしい保護者に、理解をしながら言葉で受け入れてもらえるのは何より愛情を感じることではないでしょうか。
暴れていたら、危険のない場所へ移動させ、落ち着いて泣いているだけになったら、もう一度話しましょう。
「〇〇したかったのだね。」
「まだ帰りたくないよね」
「あれ、欲しかったよね。」
「自分でやりたかったね。」
そして、その後になぜ思うようにさせてあげられないかを簡単に説明します。
「おうちにあるからまた今度だね」
「もうお昼ご飯の時間になるから帰るよ」
「今度は〇〇ちゃんにやってもらうからね、お願いね!」
「〇〇したかったから、またやろう(日曜日にやろうね、など具体的に伝え、約束は守る)」
癇癪を起す子どもは、実は大人を試しているときもあります。
泣いて叫んでいたら、懲りた保護者が思う通りにしてくれるかもしれない、買ってくれるかもしれないと思っている時もあるのです。
家庭内で子どもの接し方について、同じ対応ができるように話し合っておく必要があるでしょう。ママに言ったらダメだけれど、パパに言えば買ってもらえるなど、態度が違う保護者の対応は、成長と共に大人を侮るようになります。十分気を付けましょう。
3歳児 癇癪の対処法② どうすることが子供にとって良いのか
子どもが癇癪を起すと、どうしても腹が立ち、保護者もかんじょうてきになって罵倒したり叩いたりすることもあったかもしれません。それがよくないことだとわかっていても、保護者自身も行動が停められないこともあるでしょう。
そんなときは、児童相談所や保健所などへ相談することをおすすめします。
子どもに対する対応を暴言・暴力なしにできる保護者の方もいることでしょう。むずかしい方は、日ごろの関わり方の工夫で子どもが癇癪を起さない方法を考え、関わり続けることおすすめします。
例えば、癇癪をおこしたときに、
- 怒鳴らない、怒らない、嫌味を言わない、ネガティブなことは言わない
- 叩かない、押さえつけない、部屋に閉じ込めない
- 無理なことを言って脅さない(置いていくよ。もう知らないよ。おやつ無し等)
- また?いい加減にして!など、子どもが傷つく乱暴な言葉を言わない
- 無視をしない
これらの関わりや工夫が大切です。
何度もお話しますが、癇癪は子どもの意思表示であり成長する上でどうしても通らなくてはならない行動です。癇癪を起さない子どもも中にはいますが、癇癪を起す子どもへ対応する保護者や周囲の大人は、大変忍耐力が必要になります。
ですが、「そういう時期なのだ、いつか終わるときがくる」と割り切ることです。
決して大人を困らせようとしているわけではないことを忘れず、感情的にならずに寄り添ったり、子どもが落ち着いたときにどうしていったらよいか、ルールやしてほしいことを伝えたりしていきましょう。
3歳児 癇癪の対処法③ 普段から気をつけておきたいこと
具体的に日頃から気を付けていきたい関りとはどのようなことでしょうか。
子どもの心に寄り添い、思いを代弁して言葉にして伝えてあげることと、保護者が決めた家庭のルールや約束事にしっかりと線引きし、今日は特別!など、大人が揺らがないことが大切です。
具体的な関りや言葉がけとしては、
「〇〇したかったんだね。わかるよ。」
「自分でできるものね。ママにも見せて。大きくなったね。お兄さんだ(お姉さん)」
「ズボンをはくとき、後ろだけ手伝ってもいいかな。」
「どっちの靴下をはこうか。」
「12時にお出かけしたいのだけれど長い針が9になったら片付けしてくれる?」
「今日は11時まではお話会だから、11時までは約束ね。」
「歯磨きをしないと絵本は読めないよ。お約束よね。」
子どもを一人の人間として尊重し、子どもの意思を確認するようにしてあげましょう。
子どもは保護者が自分の気持ちや、やりたいことを、大切に扱ってくれているということが伝わりますので、寄り添った関りを続けることは癇癪が早く収まることへつながります。
家庭では、どんなに癇癪を起しても譲らないルールや約束事を共有し、ママはいいけれどパパはダメ、などと一方的になり子どもが戸惑うことは止めましょう。自分に都合の良い人を好み、正しいことを聞けなくなることもあります。
家庭内でよく話し合い、同じ関わりができるようにしておきましょう。
癇癪と発達障害との違いは?
癇癪は子どもが自分の意思を通したいことが理由で怒りますが、落ち着けば意思の疎通ができます。発達障害は、ひとくくりにはできず子どもの行動や特性、障害名は細分化されています。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 高機能自閉症
- 学習障害
- 場面緘黙症
などの障害を発達障害という言葉で表現しています。このほかにも様々な発達障害や特性があります。
癇癪と発達障害の一番大きな違いは、発達障害は専門の医師だけが診断できることであり、保護者や保育士、幼稚園教諭や学校の教諭、保健師、看護師は「この子は発達障害である」と決めることはできないことです。
一方で癇癪は、すぐにイライラしたり泣いたり怒ったりする様子があるものの、落ち着いているときは意思の疎通ができたり、通常の会話がスムーズにできること、遊びや普段の関わりに関してもさほど心配がない状態をいいます。
では、保護者や周囲の大人が発達障害かもしれないと悩んだり思い当たったりしたとき、医者はどのような診断結果を目安に診断をつけるのでしょうか。具体的にご説明しましょう。
(参考)厚生労働省「発達障害の理解のために」
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
発達障害かもしれないと思った時の判断目安
発達障害かもしれないと思っても、成長と共に子どもの様子が変化していき、心配していたことを忘れてしまうほどです。
子どもの成長は一人ひとり個人差があり、3歳だから〇〇ができるなど、平均的な情報の通りにできない子ども、逆にもっと上の年齢のようにできる子どももいます。
3歳児の頃は大変個人差があるので、周囲の子供との差を感じたり、大人から見て困った行動があっても、成長と共に気にならなくなることもあります。 それでは発達障害を疑うときはどんなときでしょうか。
- 名前を呼んでも振り向かない、気づかない。近くに行き肩をとんとんするなどして気づく
- 集団の中で一斉に指導や指示をしていても、聞いていない。ふらふらと歩き回る
- 同じ遊びを好み、並べたり積み上げたりするルールにこだわりがある
- 活動と活動の合間の切り替えが苦手で、用意や準備が遅れがちになっている。
- 偏食が多い(口の中が敏感である)
- 大きな音(避難訓練のサイレン、赤ちゃんの泣き声、叱られている声など)に敏感
- 手を挙げて発表をする場面で、だしぬけに言葉を発する
- 得意なことや興味のあることをしゃべり続け、止まらない
- 得意なことと苦手なことの差が大きい、平均的にできない
- 人のしていることから学んで自分も身に着けたり、注意したりはしようとしない
ほんの一部ですが、ほかの子供と少しだけ違うかもしれないな、という違和感を覚える程度です。
発達障害かどうかの診断は、専門の病院で知能テストを行い、得意と不得意の差がどれくらいあるのか、IQはどれくらいなのか、を医師が見極め診断を行います。
保育士や保護者、教師や保健師・看護師には診断ができません。もしかしたら発達障害かもしれないなと感じたら、早めに専門機関へ相談をしましょう。
3歳児の癇癪や発達についての相談先
性格や性質が激しく、子育てに疲れたり悩んだりしても頼れる人や相談できる人がいない場合もあるでしょう。保護者が疲れてしまうと、子育てを放棄したり、保護者自身が病気になってしまう可能性もあります。悩んでいても解決はしません。
少しでも心配がある場合は、一日も早く専門機関に相談しましょう。
かかりつけの小児科や、発達障害専門の医療機関、自治体の発達障害支援センター、児童相談所などで診断や相談を受けてもらえます。
発達障害に関しては、特に「児童発達支援センター」で総合的な判断や保護者の関わり方、保育園や幼稚園・学校との連携についても相談することができます。また、療育施設や放課後児童デイサービスなど、様々な情報を提供してくれます。
心配なときはぜひ「児童発達支援センター」へ相談してみましょう。
▼こぱんはうすさくら「児童発達支援」
まとめ
3歳児の癇癪について、なぜ癇癪を起すのか、その特徴と癇癪を起した時の大人の対応や心がけについてご紹介しました。また、発達障害にも少しふれました。
癇癪も発達障害もどちらも保護者にとっては大きな悩みと苦しみでしょう。一人で、または家族間で悩んでいても、なかなか解決できません。インターネットで情報を得ても、それは自分の子供に合った対応なのかもわかりません。
困ったとき、悩んだとき、そして発達障害について心配があるときは、一日も早く相談機関へ相談し、関わり方や対応方法を教えてもらいましょう。
そうすることで、子育てや心持ちが楽になり、育児が楽しくなるはずです。